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VA/VE (加工技術FAQ)

材料選定

コバール素材の素材特性について教えて下さい

コバールは、鉄、ニッケル、コバルトを主成分とする特殊合金です。

最大の特長は、硬質ガラスやセラミックスと極めて近い熱膨張係数を持つ点にあります 。

この「熱膨張特性の一致」というユニークな性質が、多くの先端技術分野で不可欠な材料としてコバールを位置づけています。この特性は、現代の高度な技術製品の信頼性と性能を保証する上で中心的な役割を果たす「気密封止」という重要な機能を可能にし、コバールが他の、より安価または加工しやすい金属ではなく、この特定のニッチで選ばれる理由を明確に示しています。

 

1. コバールの基礎知識:特性と規格

 

コバールは、その特殊な用途のために設計された、ユニークな物理的・機械的特性の組み合わせを持つ合金です 。 

 

1.1. 化学組成と主要な物理的・機械的特性

 

コバールは、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)を主成分とする合金です 。具体的な組成は、ニッケル約29%、コバルト約17%、残部が鉄で構成されます 。微量のマンガンやシリコン、その他の元素も含まれることがあります 。  

その物理的・機械的特性は以下の通りです。

特性項目補足事項
化学組成Ni 29%, Co 17%, Fe Bal.微量のMn, Si等を含む
密度8.24 – 8.4 g/cm³中程度の密度
熱膨張係数45.4-50.8 ×10⁻⁷/℃ (30-400℃) または 5.1-5.8 ppm/°C (20-300°C)硬質ガラスやセラミックスと近似
熱伝導率0.04 cal/cm/Sec.℃ (約16.7 W/mK) または 17 W/Km一般的な金属と比較して低い
電気抵抗率49 μΩ・cm (20℃)
引張強さ55 Kg/mm² または 550-750 MPa
降伏強さ300-500 MPa
硬度HRB 90-100 (焼きなまし状態 HRB 80)
融点約1,300℃~1,400℃
キュリー温度435℃
主要規格ASTM F15 (UNS K94610)

 

コバールの熱伝導率は、銅やアルミニウムといった一般的な金属と比較して低くなっています 。

コバールは、熱放散よりも熱応力を最小限に抑えることが重要な場合に選択される材料であり、極端な温度変化下でも部品の構造的完全性を保ち、破損を防ぐ上で非常に効果的です 。

 

 

1.2. 熱膨張特性:ガラス・セラミックスとの親和性

 

コバールの最も際立った特性は、その低い熱膨張係数(CTE)が、ホウケイ酸ガラスや一部のセラミックス(特にアルミナ系セラミック)のそれと非常に近い値を示すことです 。具体的には、30-400℃の範囲で45.4-50.8 ×10⁻⁷/℃、または20-300℃の範囲で5.1-5.8 ppm/°Cと報告されています 。

 

この特性は、異なる材料が接合される際に発生する熱応力を最小限に抑え、熱サイクル下でのクラックや破損を防ぐ上で極めて重要です 。例えば、金属製の導電部材とガラス製の発光管を気密封止する際、ガラスの熱膨張係数に近い金属でなければ、熱膨張または熱収縮によって発光管が割れてしまう可能性があります 。コバールは、この熱膨張の近似性により、「ガラス金属間シール(Glass-to-Metal Seal)」や「セラミックス金属間シール」において最適な材料とされています 。 

 

1.3. 磁気特性と電気特性

 

コバールは、多くの電子用途にとって重要な、一貫した磁気特性を提供します 。これは、非磁性のステンレス鋼などとは対照的であり、磁気部品や電磁両立性が要求される用途に適しています 。  

電気特性としては、良好な導電性を示し 、集積回路との高い互換性や信頼性の高い電気接続を可能にします 。ダイオード、トランジスタ、半導体特性を持つその他の電気部品にも使用されます 。高周波電流伝送容量の改善や接触抵抗の低減のため、金メッキや銀メッキが施されることもあります 。 

 

コバールが持つ一貫した磁気特性と良好な導電性という二つの特性の組み合わせは、電磁両立性(EMC)が不可欠な用途や、効率的な信号伝送が必要な用途において、この材料を理想的なものにしています。電子部品や航空宇宙のアビオニクスシステムなど、電磁場や信号伝送が頻繁に発生する環境では、これらの特性が連携して機能することで、電子部品の小型化を可能にし、フライトコントロールやナビゲーションシステムなどの複雑なアビオニクスシステムにおいて、電気的完全性と磁気シールド/相互作用の両方が重要となる場面で、信頼性の高い性能を保証しています。単に個々の特性を持つだけでなく、それらが連携してシステム全体の高性能化に寄与している点が重要です。

 

1.4. 適用される主要規格(ASTM F15、JIS関連製品への言及)

 

コバールは、主に国際的な材料規格であるASTM F15 (UNS K94610) に準拠して製造・供給されています 。この規格は、ガラス-金属封止用途の鉄-ニッケル-コバルト合金の化学組成、機械的特性、熱膨張特性などを規定しています。  

日本の産業においては、コバール自体に直接的なJIS材料規格は存在しないとされています 。しかし、コバールは、JIS規格に準拠する製品、例えば真空フランジやビューポート(JIS VF/VG規格)の構成部品として広く利用されています 。

コバールを調達する際にはASTM F15を参照するのが一般的ですが、日本国内のシステムで使用されるコバール部品を設計または調達する際には、関連するJIS製品規格(例:真空部品用)への適合が求められることになります。

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