VA/VE (加工技術FAQ)
材料選定
フェライト系ステンレス鋼のJIS規格と代表的な鋼種を教えて下さい
フェライト系ステンレス鋼は、JIS規格において主に「SUS4xx」という形式で表記される鋼種に分類されます 。この分類は、その主要な合金元素と結晶構造に基づいており、多様な特性を持つ鋼種が存在します。
🔵代表的な鋼種と特性🔵
- SUS430: フェライト系ステンレス鋼の中で最も広く使用されている汎用鋼種です 。約18%のクロムを含有し、ニッケルをほとんど含まないため、SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼に比べて安価で入手しやすいという大きな特徴があります 。耐熱性、耐食性、加工性に優れ、磁性を持つ点が大きな特徴です 。屋内パネル、家庭用品、洗濯機のドラム、鍋釜類など、比較的腐食環境が厳しくない屋内用途で主に使用されます 。コストパフォーマンスの高さから、一部のSUS304の代替材料としても用いられます 。
- その他の主要なフェライト系鋼種: フェライト系ステンレス鋼には、クロム含有量や添加元素によってさらに多様な特性を持つ鋼種が存在し、幅広い用途に対応しています 。
- クロム含有量が10%〜14%のグループ(例:SUS405, SUS409, SUS410L): このグループはクロム含有率が比較的少なく、最も低価格なフェライト系ステンレス鋼です 。耐食性は低いものの、多少の錆が許容される用途、例えばコンテナやバス、乗用車の腐食しにくい部品などに使用されます 。
- クロム含有量が14%〜18%でTiやNb等の安定化元素を含むグループ(例:SUS430LX, SUS430F): SUS430に対応するグループですが、チタン(Ti)やニオブ(Nb)などの安定化元素を添加することで、加工性や溶接性が向上しています 。これらの鋼種は、SUS304に近い特性を示すものも多く、流し台や排ガス装置、洗濯機の溶接部分などに用いられています 。安定化元素の添加は、溶接時の粒界腐食感受性を低減し、溶接部の性能を向上させる効果があります。
- クロム含有量が18%以上でMoを含むグループ(例:SUS434, SUS436, SUS444): モリブデン(Mo)を含むことで、より高い耐食性を示します 。SUS444は特に高純度フェライト系ステンレス鋼として知られ、SUS316よりも優れた耐食性を持つ場合もあります 。熱膨張が小さいため、熱膨張・収縮が問題となる屋根や壁などの建材外装用にも適しています 。主な用途には、屋外パネル、各種タンク、電子レンジ部品などが挙げられます 。
- クロム含有量が18%〜30%のグループ(例:SUS445, SUSXM27, SUS447): クロム含有量を増やし、モリブデンなどを添加したもので、フェライト系の中では最も耐食性が高いグループです 。海水中のような厳しい腐食環境下や、薬品に触れる化学プラントなどの用途で主に用いられています 。
これらの鋼種は、それぞれが持つ特定の特性(耐食性、加工性、溶接性など)を強化するために、クロム、モリブデン、チタン、ニオブといった合金元素の含有量が調整されています。これにより、汎用的な用途から、自動車の排気系部品や化学プラントといった特殊な環境まで、幅広いニーズに対応できるフェライト系ステンレス鋼が提供されています 。特定の合金元素(Ti, Nb, Mo)の添加は、汎用鋼種であるSUS430の限界を超える性能を付与し、より専門的な用途での利用を可能にしています。これは、材料設計の柔軟性を示しており、技術者は用途の要件に応じて最適なフェライト系ステンレス鋼を選択することができます。