VA/VE (加工技術FAQ)
SUS410とSUS420J1の違いは?どのように使い分けますか?
1. 基本情報とJIS規格
- SUS410(JIS G 4303): マルテンサイト系ステンレス鋼の基本種。12%クロム(Cr) を含み、炭素(C 0.15%以下) が低め。焼入れ硬化可能で耐摩耗性に優れる。
- SUS420J1(同規格): マルテンサイト系で、13%クロム(Cr) と 炭素(C 0.16-0.25%) を含有。SUS410より高硬度で耐摩耗性が高い。
2. 成分組成の違い
鋼種 | Cr(%) | C(%) | Ni(%) | Mo(%) |
---|---|---|---|---|
SUS410 | 11.5-13.5 | ≤0.15 | なし | なし |
SUS420J1 | 12.0-14.0 | 0.16-0.25 | なし | なし |
主な差異:
- 炭素量: SUS420J1は高炭素で焼入れ後の 硬度が高く、耐摩耗性が向上。
- クロム量: SUS420J1はCrをやや多く含み、耐食性がSUS410よりわずかに優れる。
3. 特性と用途
- SUS410:
- 特性: 中程度の耐食性・耐熱性。焼入れ(空冷・油冷)で硬度上昇(HRC 40程度)。
- 用途: ポンプ部品、シャフト、ボルト、刃物(低コスト工具)。
- SUS420J1:
- 特性: 高硬度(焼入れ後HRC 50以上)で耐摩耗性が高いが、靭性は低い。
- 用途: 外科用メス、カッター刃、軸受、金型部品。
4. 加工性の比較
- SUS410:
- 焼入れ前は切削加工が可能。焼入れ後は硬度上昇のため 研削加工が主流。
- 溶接性は低く、事前予熱・後熱処理が必要。
- SUS420J1:
- 高炭素のため焼入れ前でも加工硬化しやすく、切削加工は困難。
- 焼入れ後の加工はほぼ不可能。精密研削が必須。
5. 入手性と価格
- SUS410:
- 入手性: 汎用マルテンサイト鋼として流通量が多く、板材・棒材が容易に入手可能。
- 価格: 比較的安価(SUS420J1の約 1/1.5倍)。
- SUS420J1:
- 入手性: 特殊用途向けのため、薄板や小径棒材はメーカー受注生産となる場合あり。
- 価格: 高炭素・高硬度のため高価(SUS410の 1.5~2倍)。
6. 派生鋼種の補足
- SUS420J2: SUS420J1よりさらに高炭素(C 0.26-0.40%)。超高硬度(HRC 55以上)で刃物向け。
- SUS403: 低炭素マルテンサイト系。耐熱性を活かしタービンブレードに使用。
7.まとめ
項目 | SUS410 | SUS420J1 |
---|---|---|
耐食性 | 中程度(大気・淡水環境) | SUS410と同等~やや優れる |
硬度 | HRC 40程度(焼入れ後) | HRC 50以上(焼入れ後) |
加工性 | 焼入れ前は切削可能 | 加工困難(研削が主流) |
価格 | 安価(基準価格) | 高価(1.5~2倍) |
用途例 | ボルト、ポンプ部品 | 外科用メス、精密刃物 |
選定のポイント:
- SUS410: コスト重視・中硬度要求部品(例:産業機械部品)。
- SUS420J1: 高硬度・耐摩耗性が優先される精密工具や医療機器。